脳血管障害のPET検査について

脳血管障害のPET(ペット)検査は、脳の血流や代謝の状態を定量画像としてとらえる診断法で、脳血管障害の重症度評価、治療方針の決定、治療効果判定などの目的に使われています。脳血流量、酸素代謝率、酸素摂取率、脳血液量を測定するために、15O標識の一酸化炭素(C15O)、酸素( 15O2)、二酸化炭素(C15O2)の3つのガスを用いた15O標識gas-PET が一般的です。当研究所では、神経細胞の状態を描き出すFlumazenil(フルマゼニル)を組み合わせた総合画像診断を行なっています。

15O標識gas -PET検査の原理

PET検査の原理や使用装置はがんのPET検査と同じです(がんのPET検査について参照)。使用する薬剤と撮像方法が目的により異なるのです。

脳血管障害の中で、もっとも多い脳梗塞は、脳の血管の閉塞により、脳組織への血流が減少することが病態の中心です(脳虚血という)。脳血管が狭窄すると末梢へ血流を送る圧力が低下しますが、血管には拡張する能力があり、末梢側で血管が拡張し抵抗を減らすことにより、血液を送る圧較差を減少させないように働きます。これを一般に脳血流の自動調節能とよび、圧が低下しても程度が軽ければ、末梢血管の拡張により血流量は保たれます。狭窄が高度になり、自動調節能の限界をこえると、血流量が低下します。血流量が低下しても、程度が軽い段階では、血管内より酸素が取り込まれる比率(酸素摂取率という)が増えることで、脳への酸素供給量は維持され、脳の酸素代謝率は保たれます。しかし、酸素の取り込み増加が限界に達すると、脳の酸素代謝率は低下し、機能が維持できない状態となります。さらに低下すると神経細胞などの脳組織が壊死する、脳梗塞が起こります。

このような一連の反応、すなわち血管拡張、血流量低下、酸素摂取率増加、および酸素代謝率低下を、15O標識gas-PET検査により、定量的に測定(値を求める)します。定量には、腕の動脈に柔らかい針をあらかじめ挿入しておき、脳の放射能をPETで測定しながら、時々採血し、血液の放射能も測定します。定量的に測定することで、脳循環障害の程度を正確に評価することができ、脳梗塞発生の危険性を正確に判定できます。

15O標識gas -PET検査の適応

動脈硬化による、アテローム硬化性脳主幹動脈(脳の太い血管)閉塞性疾患患者で、脳循環障害の重症度評価を行い、脳梗塞発生の危険性とバイパス手術の必要性を正確に判定することが最もよい適応です。一般的に臨床検査として行われている脳血流SPECT検査では、脳血流がどれだけ低下しているかを測定したり、脳血管がどれだけ拡張しているかを推定したりすることは可能です。しかし、血流が脳の代謝に対してどれくらい不足しているかを評価することはできません。これを直接評価できる唯一の方法が15O標識gas –PET検査です。この血流不足の程度が、脳梗塞発生の危険性やバイパス手術による脳血流改善の程度を最も正確に予測します。

すべての患者にPETを行うことは困難なため、脳血流SPECT検査で異常と判断され、バイパス手術の適応がある可能性があると判定された患者の最終判定に用いる検査であると考えています。脳血流SPECT検査で異常と判定された患者の半分は、PET検査をおこなうと血流不足の状態にはなく、手術の必要性はないことがわかっています。PET検査により、本当に手術が必要な患者と不必要な患者を最終選別できます。

15O標識gas -PET検査の方法

FDG-PET検査とは違い、絶食は不要で、通常通りの状態で検査できます。15O標識gas投与に先立ち、腕の動脈に柔らかい針をあらかじめ挿入します。C15O, 15O2, C15O2の3つのガスを順番に鼻から吸入してもらい、その度に撮影と採血を行います。時間は、検査全体として一時間半程度かかります。目は閉じていただきますが眠らないこと、撮影中はしゃべらず、頭を動かさないことが肝心です。

15O標識gas検査に続いて、11C標識Flumazenilを静脈注射し、その後50分撮影します。採血はありません。連続して撮影していますので、頭を動かさないことが肝心です。神経細胞に結合しますので、集積の程度は神経細胞の状態を反映します。連続して撮影することで、採血はしないものの、定量することが可能です。

副作用・被ばく

全身の被ばくは1.5mSv程度で、一般的に通常の胃透視検査の被ばくと同等ないし、より低いので、ご安心ください。

採血のための動脈カテーテルに関しても一般診療行為として行われているもので、副作用として血腫形成や血管閉塞の可能性が考えられますが、習熟した医師が十分注意して行えば問題はないと考えています。

当研究所でのエビデンス

1999年秋から脳15O gas PET検査を開始し、13年以上の実績があります。2012年、研究所で脳15O gas PET検査をうけ治療方針を決定された滋賀県の脳卒中患者では、再発率が減少していることを、12年にわたる研究により明らかにしました。15O gas PET検査が脳卒中患者の再発予防に役立っていることを裏付けた研究です。近年の進歩した治療の下でも、脳15O gas PET検査で血流不足と判定された患者は、再発率が高いことも証明しました。同じ検査でも、その正確さは各施設で検証していかなければなりません。「この検査でこういう結果だったらどのくらい再発しやすい」という独自のデータを持ち、かつ、国際的な論文として発表している施設は当研究所のみです(下記の関連する発表参照)。

関連する発表

(リンク)

滋賀県民の脳卒中再発予防に寄与 -PET検査の効果検証-(論文発表)

15O gas PETは無症候性脳血管病変の脳梗塞発症予測に有用である -(論文発表)

脳卒中患者の血圧管理法は脳循環障害の有無により変える必要があることをPET研究により解明(論文発表)

お知らせ:1999年以降に当研究所で15O-ガスPET検査を受けられた脳卒中患者さんへ

2013年9月24日

脳卒中は、脳の血管が詰まって血の巡りが悪くなったり、破れて出血したりする病気です。近年治療法は進歩していますが、脳卒中患者さんは高率に再発し、治療は不十分です。脳卒中の中で最も多いのは脳梗塞ですが、その予防には、脳梗塞を発生しやすい要因(危険因子)を見つけてそれを集中的に治療する必要があります。脳の血の巡りが悪いこと(脳循環障害)は、危険因子のひとつであることがわかっています。脳循環障害の程度を最も正確に知ることができる検査が、15O-ガスPET検査です。

当研究所では、1999年開所より15O-ガスPET検査をおこない、脳卒中患者さんの治療方針の決定に役立てるように努力してきました。現在、15O-ガスPET検査開始より10年以上が経過し、多数の患者さんを検査することができました。そこで、PET検査結果と患者さんの予後(再発や死亡など)とを比較検討することで、PET検査の情報をどのように生かしていけば、脳卒中を防ぐことができるかを検討できる時期が来たと考えています。

PETにより正確に脳循環障害の程度を評価することで予後が予測できているかを明らかにするとともに、脳循環障害の程度に応じた治療や危険因子の治療方法を探索します。その結果に基づけば、個々の患者さんにおける、脳循環障害の程度に基づいた治療方針を決めることができ、患者さんの予後を改善できると考えています。そこで、滋賀県立成人病センター研究所では、15O-ガスPET検査を受けた脳卒中患者さんの予後を明らかにする研究を実施することにしました。

具体的には、滋賀県立成人病センター研究所において、1999年から現在までの間に15O-ガスPET検査をうけた脳卒中患者さんを対象とします。カルテおよび各種検査結果などを閲覧し、その既存資料に基づき検討を行います。症状・診察所見・各種の検査(血液検査、頭部MRIなど)の関係を検討し、PET検査と予後の関係の詳細を解析する予定です。カルテから得られる情報が不十分な場合には、失礼ですが、お電話等で情報提供のご協力をお願いする場合があるかもしれませんが、強制ではありませんので、情報提供は当方からの説明にご同意いただける場合のみで結構です。

この調査は、滋賀県立成人病センターにおける倫理委員会にて承認されています。カルテなどの資料がセンター外に持ち出されることはありませんし、結果の解析時には患者さんの名前は使用されず、番号にて管理されますので、個人情報は保護されています。また、結果は公表することがありますが、患者さん本人を特定しうる個人情報は保護されます。ご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。もし、本研究へのご協力がいただけない場合やご質問などある場合には、下記までご連絡下されば幸いです。

責任者:滋賀県立成人病センター研究所 副所長・画像研究(PET)部門 山内 浩
問い合わせ先:山内 浩
〒524-8524 滋賀県守山市守山5-4-30 TEL:077-582-6034 FAX:077-582-6041
E-mail:yamauchi@res.med.shiga-pref.jp